ポーカーを題材にした映画はいくつかありますが、中でもお勧めはこれ。名作ラウンダーズです。ポーカーシーンも本格的と評されており、僕も大好きな映画です。
マットデイモンがポーカーの天才青年マイクを演じるわけですが、実際のところ、彼にはどれほどのポーカーの才覚があるのでしょうか。ポーカーにおいて、相手の力量を推し測るのは重要な能力の一つ。毎日ポーカー漬けの生活を送っているfirepoicatが、マイクのポーカー能力を分析してみたいと思います。
ラウンダーズの公開は1998年。ポーカー戦略も現代ほどには洗練されていない時代です。戦略トレンドはかなりパッシブですし、ベット額も現代と比べて大きめだったようですね。
また、現代のヘッズアップは通常、プリフロップとポストフロップでアクション順が逆になりますが、劇中ではアクション順番は常にSB→BBとなるルールを採用しているようです。それらを踏まえ、マイクのハンドヒストリーを詳しく見ていきましょう。
なお、以下には思いっきりネタバレを含みます。映画を見たこと無い人は、お先にそちらをどうぞ。
ハンド① ~開幕戦~
BU マイク
BB テディKGB
Preflop CO fold BU 600 SB fold BB call
Flop(1250) BU 2,000 BB call
Turn(5250) check around
River(5250) BB 15,000 BU 48,000 BB call
オープニングで主人公マイクがテディKGBに敗れ、全てを巻き上げられる有名なこのシーン。果たしてこの手痛い敗北は、回避可能だったのでしょうか。
プリフロップ:ボタンのマイクが6bbにオープンレイズ。額はともかく、当然レイズですね。
フロップ:ポットオーバーのコンティニュエーションベット。これまた額はともかく、当然です。
ターン:9のボードペアでフルハウスに。マイクはスロープレイでのチェックバックを選択します。これは悪手。相手のリバーブラフの頻度が極端に高くない限り、ターンベットが大きく勝ります。ましてやフロップでポットオーバーをコールされていることを考えればなおさら。Aヒットにもドローにもコールして貰う事を考えれば、ハーフポットのベットが正着手でしょう。
リバー:KGBが突如ポット3倍のドンクベット。なんなんだこのアクションは。A9はセカンドナッツ、さてどうしますか。・・・言うまでも無く、レイズオールインです。さすがにこれは他に選択肢がありえません。回避不可能です。
ちなみに非常に興味深いのはレイズオールインをする際のマイクの台詞。字幕では意訳で「弱いフラッシュだろ?」となっていますが、実際の台詞は以下の通り。聞き取りby aileen。
「I’m gonna go all in coz I don’t think you got spades.(お前スペードのフラッシュなんて無いんだろ?オールインするぜ)」
フラッシュなんて無いんだろ?と自分も大したこと無いハンドを装いながら、実は強いフルハウス。相手がリーディング勘違いしてフラッシュでコールしてくれ!という浅はかな想いが見て取れます。この姑息な演技は、ギャンブル界ではアングルシューティング(いわゆる三味線)と呼ばれます。
これも勝負の内なのでルール的に問題となるわけではありませんが、これほどに古典的でベタな演技だと、かなりダサいレベルです。フルハウス見え見えじゃん、ダサっ!と指差されてもおかしくありません。実際のところ、これをやってる強いプレイヤーは稀と言えるでしょう。
ハンド② ~リベンジ戦その1~
Heads up $25/$50 NLH
SB マイク
BB テディKGB
Preflop SB 1,000
BB 6,000
SB 10,000 all in
BB fold
マイク、いきなり20bbのオープンレイズ!何をぶちかますかと思いきや、KGBも負けじと120bbに3bet!それに対しマイク、ごにゃごにゃ言いながら200bbのオールイン。そしてなんとなんと、残り80bbをKGBフォールド!
ちょっと意味が分かりませんね。さすがにこのシーンはポーカーを良く知らない人が撮ったとしか思えません。ちょっと実際に起こるとは考えづらい局面です。ヘッズアップでのKKプリフロップ200bbは突っ込んで止む無しでしょうから、マイクとしては悪いプレイとは言い難いでしょう。
ハンド③ ~リベンジ戦その2~
Heads up $25/$50 NLH
Preflop ???
Flop ???
Turn(800) SB 1,000 BB call
River(2800) SB 2,500 BB call
マイクがトップペアを当ててターンリバーでベット、KGBがブラフキャッチコールを試みて負けていきました。特にコメントするようなこともありません。強い手が出来てから普通にベットして、普通に勝ちました。
ハンド④ ~リベンジ戦その3~
Heads up $50/$100 NLH
Preflop SB 450 BB call
Flop(900) BB 22000 all in SB fold
フロップトップ2ペアを当てたマイク。いつものように必殺オーバーポットベットを繰り出そうとしますが、異変に気づきます。相手のテル(癖)からモンスターハンドを見抜き、フロップチェック。そこへKGBがベット・・・超オーバーポットのオールインかよ!奇跡的なフォールドを見せて事なきを得ます。
まあ、テルで相手のモンスターを見抜いたところまでは良しとしましょう。しかしその確信は、24ストレートの一点読み。いや、昔AAのスロープレイにやられただろアンタ!疑うにしてもAAのトップセットにしとけよ。思い込みが激しすぎるリーディング力をさらけ出した一戦と言えましょう。
ハンド⑤ ~リベンジ戦その4~
Preflop SB 200 BB call
Flop(400) BB 2,000 SB call
Turn(4400) BB 4400 SB call
River(13,200) BB 22,600 SB call
劇中最後のハンド。何故か今回は2bbレイズからスタート。完全にハンドの強さでベット額変えてますねマイク君は。老獪なKGBにばれてなければいいのですが。フロップナッツを引き当ててスロープレイしてみたら、オーバーベット3発がとんできて簡単にオールイン勝ててしまいました。KGBのハンドは劇中明らかにはなりませんが、ショウダウン時の言動や他のプレイスタイルを勘案すると、AAだったのでしょう。ジョニーチャンvsエリックの模倣であたかもスロープレイが功を奏したかのように描かれてますが、他のラインを取ってもオールインになったことでしょう。このハンドなら、実は誰がどうプレイしてもほぼオールインを勝つことになります。ちょっと悲しい真実。
ハンド⑥ ~番外戦 vs ジョニーチャン ~
ジョニーチャンとは劇中で伝説とされるプレイヤーですが、実在の人物。というか今も現役で、先月マカオで100/200HKDをプレイしているときに僕も同卓しました。WSOPメインを2度優勝している有名プレイヤーです。
マイクはジョニーチャンと対戦した経験を自慢げに話します。超タイトにプレイしていて、突如ブラフを発動。そこでジョニーチャンがフォールドしたことを受け、おれはチャンピオンにも勝てるんだと。
・・・この発言は致命的です。先輩プロ、クニッシュに対し自分の行動を弁解するつもりが、ポーカーセンスが無いことを暴露してしまいました。改めて見ると、クニッシュの苦笑いがいい味を出していますね。ダメだこいつは、と言わんばかりです。
さて、これらのハンドヒストリー、言動からマイクのプレイスタイルをまとめると以下のようになります。
・基本的にはタイト
・相手へのアジャスト力は一級品
・リーディングの主体は相手のテル
・強い手の時にはベット額がめちゃめちゃデカい
・ハンドの強さによってベット額が露骨に変わる
・言動から察するに、ポーカーの理解度は高くない
現代のラスベガスで、ベラージオ$5/$10 No Limit Holdemのキャッシュゲーム卓に座ったと仮定して、どのくらいの成績が出せるのでしょうか。年配のオールドスクールプレイヤーにはかなりの強さを発揮するでしょう。現代のセオリーを学んだ中堅プレイヤーには遅れを取るレベルです。これらを総合し、firepoicatの独断と偏見によりマイクの能力を見積もると。
マイクの推定win rate : $20 / hour
勝つことは出来るでしょうが、あまり強いとは言えないレベルにありそうです。また、経験豊富でプレイスタイルがほぼ完成されている分、伸び代は大きくなさそう。心を入れ替えて必死に頑張らないと、近い将来消えていってしまうプレイヤー層の1人といったところでしょうか。
ということで、ポーカー的にシリアスな目線からは辛口評価になってしまいましたが、映画は今見ても面白いと思います。ポーカーを嗜む人は是非見てみることをオススメします。
友人宅のペルシャと昼寝